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舞台と仲間に支えられた3年間。やりたいことを丸ごと応援してくれる創造コースだからこそ切り拓けた、演劇ファーストな進路選択
生徒の世界を広げ、深め、創造へとつなげる追手門学院高校独自の「創造コース」。プロジェクトの学びを中心に、生徒たちは自分の世界を最大限に表現し、創造に挑む3年間を過ごします。
そんなひときわユニークな学校生活を送ってきた創造コース生たちは、どんな進路を選んでいるのでしょうか?
今回は、創造コースの記念すべき第1期生として、2025年3月に卒業を迎える齋藤夕璃(さいとうゆうり)さんにお話を聞きました!
演劇を一番にやる。そのための進路選択
ーー齋藤さんの卒業後の進路と、その進路を選んだ理由について教えてください。
私は高校入学から演劇部に入り、ずっと演劇に取り組んできました。卒業後もより深く演劇を学びたいと思って、香川県の四国学院大学に進むことにしました。
演劇を学べる場所は大阪や京都にもありますし、実際に見学も行ったのですが、自分にとってピンと来たものはなくて。
そんな中、創造コース独自の科目の1つである「表現コミュニケーション」という授業を担当している福岡先生におすすめしてもらって四国学院大学のオープンキャンパスに行ったんです。
自分がやりたいことの「ど真ん中」だった感じがして、「ここだ!」と思って志望しました。本当に強い気持ちで、ここだ!と思えたのは四国学院大学だけです。追手門の先輩もこの大学で活躍していると聞いたので、その点でも安心できました。
ーーどういったところが「ど真ん中」と感じたのですか?
演技や演劇を深めていくうえで、講師の方に質問しやすいことや、周りの人とコミュニケーションを取りやすいことはすごく大事だと思っています。なぜかというと、演劇は一人ではできないから。
高校2年生になったばかりのとき、部活でシンデレラをアレンジした演劇に取り組みました。そこで私は魔法使いの役を担当することになったのですが、「この魔法使いは、どんなキャラクターなんだろう」「この魔法使いにはどういう背景があるのだろう」と考える必要がありました。
でもそのように理解を深めていくのは自分一人では難しくて、先生や仲間に助けてもらったという経験があります。だからこそ、講師の方との距離感の近さや、学生同士のコミュニケーションの取り方に魅力を感じたんです。
もちろん舞台で演じるときも、普段のやりとりが一緒に舞台に立つ人との舞台上でのやりとりに影響されるため、先生や学生の距離感を見たときに「ど真ん中」と感じたのだと思います。
ーー演劇を中心に学んでいくという選択に、迷いはありませんでしたか?
演劇をやっていきたい気持ちはありましたが、俳優として成功するかも分からないし、成功したとしても舞台に出続けることは難しいとは思っていて。だから親からも「普通の大学に行って、空いた時間に演劇をやるという道もあるんじゃないの?」と言われたこともありました。
でも私は、演劇を一番にやって、それ以外のものを空いた時間にやるくらいにしたいと思っていたので、進学先についてはたくさん話し合いました。
高校1年のときから、芸大や専門学校のオープンキャンパスを自分で調べて、一人で行ったりしていたので、親も私の気持ちを分かってくれた上で、今回の進路選択となりました。
ーー本当に演劇が好きなんですね。何が齋藤さんをそこまで夢中にさせるのでしょうか?
舞台に立っているとき、すごく「生きている」と感じられるんです。照明や熱気で体が熱くなってきたり、お客さんの顔を見たり視線を感じたりすると、本当に、自分は生きて、今この舞台に立っているんだと実感が湧いてくる。
演劇に出会う前の中学生までの自分は、好きなものも曖昧だったし、周りの意見に合わせて生きてきたと思っていて。こんなにがむしゃらに何か1つのものを頑張ったことは人生で初めての経験で、やっぱり自分には演劇がなくてはならないと実感したので、その点は揺らがなかったですね。
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ーー高校3年間の演劇部での経験が齋藤さんに大きな影響を与えたようですね。
間違いなく大きな影響がありましたね。ほとんど毎日のように部活があり、公演前には9時から19時までずっと練習という日もありましたが、一日中ずっと好きなことを考えられるのはすごく楽しかったし、濃密な時間を過ごすことができました。
特に2年生になってからは部活の運営を担当するようになり、それまでどこか表面的な関係だった同期とも、ぐっと距離が近づいたんです。運営をするためにお互いが思っていることをぶつけあったこともたくさんあります。でもそうやって仲良くなっていき、今では本当に家族のような存在です。
ーー部活を通して、大切な仲間ができたのですね。
入部当初23人いた同期も、先日の引退公演を迎えたときには8人になっていましたが、そのうちの6人が舞台の照明、俳優、声優という道に進みます。
同じ俳優や舞台の道を目指す同期がいてくれるおかげもあり、自分も迷わずにこの道に進んでいけたこともあります。
演劇から、自分の意見を伝える勇気をもらった
ーー創造コースでの学びを通して成長したと感じる部分はどこですか?
創造コースに入る前は、周りの意見に合わせてばかりいたんです。友達が何かをすると言ったら「じゃあ私もそうする」みたいに。自分の意見や気持ちを考えないような口癖や思考になってしまっていたと思います。
それが創造コースに入り、自分の力でやらなければいけないことがたくさんある、ということに直面しました。
強く覚えているのは、高校2年生で経験したパッケージデザインプロジェクト。私のグループは「コーヒーが苦手な高校生にもコーヒーを飲んでもらえるようにするには」というテーマで商品を考えていました。
グループでプロジェクトに取り組んでいたのですが、自分が率先して取り組めることを一つも見つけられなくて、すごく悔しかったことが今でも強く心に残っています。
自分がやりたいこと・やるべきことについて、今何をすべきなのかを考え、自分の力で取り組むことの大切さを学んだ3年間でした。
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ーー自分の意思を持ち、意見を言えるようになるまでには、迷いや葛藤もあったのではないでしょうか?どのようにしてその壁を乗り越えましたか?
追手門の演劇部では、齋藤夕璃という役を齋藤夕璃が演じます。舞台上の齋藤夕璃という人と、普段の齋藤夕璃。
普段の自分は意見を合わせがちなのに対して、舞台に立っている自分は、自信があって意志を強く持ち、自分が決めたことを貫こうとするんです。特に「演劇」に対しては意志が揺るがなくて、心や身体の中に強く軸としてあるんだなということを自覚しました。
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でも実際は、舞台上の自分と普段の自分とのギャップがあることに戸惑いを感じることもあって。しかし、公演を重ねる中で、日常生活でも自分の言葉の重みを意識するようになったんです。
その結果、普段の生活でも少しずつ自分の意見を伝える勇気が湧くようになりました。今では、舞台上の自分と普段の自分が一つに重なり合っているような感覚があります。演劇を通じて得た自信と強さは、私の中で大きな変化をもたらしてくれました。
ーー自分の発する言葉の重みを考える、ということが演劇でも培われたのですね。
そうですね。今でも決してゼロではないのですが、周りの目を気にして生きてしまうというか、周りの顔つきや表情をうかがいすぎてしまうところがありました。
でも演劇を深く学ぶことで、相手の表に見えている顔や表情ではなくて、相手自身の身体の質感や心の動きに目を向けるようになりました。だから、相手のリアクションに一喜一憂しないようになったのだと思います。
迷いに迷った創造コースへの入学。あの小さな決断がつくった18歳の私の姿
ーー創造コースの1期生として過ごした高校3年間は、どのようなものでしたか?
学びたいことを自由に学べて、私たちのしたいことを全部丸ごと応援してくれる環境を用意してくれたことがうれしかったです。3年間の中で、起業に挑戦した子もいるし、特技を活かして独自のプロジェクトを進めた子もいました。
自由である一方で、自由であるがゆえに自分の意思で決めなければいけないことがたくさんあり、時にはその責任に直面する場面もありました。何かに特化してとことん突き詰める人が多くて、本当に尊敬しています。
ーー創造コースに興味を持っている中学生には、どんなことを伝えたいですか?
もしちょっとでも創造コースに入りたいと思ったなら、その決断は、諦めないでほしい、やめないでほしいと思います。
私も「創造コースで学びたい」と思いながらも、「やっぱりやめようかな」という迷いがあったんです。というのも、同じ中学校から創造コースに進学するのは私だけだったし、新設のコースという未知の環境に飛び込むのはすごく勇気が必要だったので、合格した後ですらも迷っていたくらいでした。
でも今振り返ると、中学3年のときに迷いながら決めたその小さな選択によって、18歳の自分にとってすごく大きな、すごく大切なものを得られたと心から思っています。もし迷っているなら、入ってから迷ってみてほしいなと思います。ぜひ一歩踏み出してみてほしいです。
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ーー最後に、今後の齋藤さんの目標を教えてください。
私の目標は、見てくれた人に影響を与えられる俳優になることです。私は劇を見た後にその役になりきってみたり、その役のことを嚙みしめるように考えてみたりすることが好きなんです。
観客が舞台の登場人物についてしっかり考えるという行動を日常生活に置き換えると、周りにいる他者のことを考えたり興味を持つことにつながってくると思います。そうやって他者に興味を持つ人がこの社会に溢れたら、すごく思いやりのある社会になるんじゃないか。
そんな社会を自分の手で直接つくれないとしても、そんな思いやりの溢れる社会に、自分も関わり続けるような俳優になりたいと思います。