「語れるすごろく」がNext Education Award 中高生の部で最優秀賞を受賞!創造コース1期生が考案した、楽しみながら自己理解ができる教材とは!?
追手門学院中高・創造コースの高校生3人が作った、「自己理解」をテーマにしたすごろく型の副教材「語れるすごろく」。
2024年度に実施された「今後世界が直面する課題を解決する人」の育成を目指し、課題解決に向けてチャレンジしている教育者や中高生にスポットライトをあてるNext Education Awardでは、中高生の部で最優秀賞を受賞した。
なぜこのような教材が生まれたのか?「語れるすごろく」誕生の背景や、込められた思いについて、2024年7月5日からクラウドファンディングに挑戦している「チームわたがし」に、話を聞きました。
自己理解を、もっと楽しく
ーーズバリ「語れるすごろく」とは、何ですか?簡単に教えてください
中村さん:
一言で言うと、楽しく自己理解ができるよう工夫されたすごろくです。自己理解とは自分の価値観を深く知ること。そう聞くと、何だか重い感じをイメージしてしまいませんか?
でもこの「語れるすごろく」では、通常のすごろくと同じようにコマを進め、止まったマスに指定されたカードを引き、カードに書かれた話題で対話することで、楽しく自己理解が進むように設計されているすごろくです。
古川さん:
このすごろくは、オリジナルのカードシステムを用いて、TALK、EVENT、STOPの3種類のマスに止まると、対応するカードを使った対話やミニゲームを行います。
TALKカードでは、性質・価値観・経験に基づくお題が提示され、プレイヤーはそのお題について対話します。EVENTカードは、プレイヤー同士の一致を試すミニゲームを通じて、自分と他者の見方の違いを楽しむものです。STOPマスでは、対話を振り返り、自分の思考を整理する時間を持ちます。
ゲーム全体を通して、自分と他者を知る対話のループを楽しむ設計となっています。
ーーおもしろそうですね。なぜ自己理解をテーマにしたすごろくが生まれたのでしょうか?
中村さん:
実は「語れるすごろく」の原型は、自己理解のためのすごろくではありませんでした。原型が生まれたのは、私たちが2年生で出かけた、高知県への「探究旅行」のときのことです。
このときに、コースの中で数人の仲間を募ってプロジェクトに取り組んだんです。そのとき作ったものは「高知の地域魅力発見すごろく」、その名も「高知る(こうちる)」。このすごろくを生み出し探究旅行は終わったのですが、メンバーの中で「探究旅行の中だけで完結するプロジェクトで終わらせたくないよね」という話をしました。
ただ、都道府県について知れるすごろくというのは他にもたくさんあって。だから何か違うものがいいという話が上がっていたのですが、とある方からいただいたフィードバックを思い出したんです。
「高知る」というすごろくは、高知に住んでいる人自身に高知の魅力を再発見してもらうというコンセプトだったのですが、「このすごろくで遊ぶと、高知の魅力に気づくだけではなく、自分自身の価値観についても知れるね」と言われて。
創造コースのメンバーは、普段から対話やリフレクションを通して、自己理解の大切さを理解しているのですが、明確に授業の中で教わった訳ではなく、日々の活動の中で自分の価値観を見つけてきたという感覚があります。
でも、もっと自分のことを知りたい!と思った人が、自己理解に楽しく、ハードル低く取り組めるにはどうしたらいいだろうか?そんな問いと向き合ってみると、すごろくというベースのアイデアは変えずに「高知の地域魅力を発見する」というコンセプトから「楽しく自己理解する」という方向に、すごろくを新しく作り替えていくのはどうか、と考えるようになりました。
ーーなぜ「これで終わらせたくないよね」と思ったのでしょうか?
山崎さん:
とにかく楽しかったんです。大阪に帰って探究旅行を振り返ったとき、みんなで活動することがとても楽しかったことに気づき、続けていきたいと思いました。
中村さん:
明確なプランがあったわけでもないし、すごく強い動機があったわけでもないというのが正直なところです。冗談半分で「すごろくができたら、100円ショップやサービスエリアで売られるようになったらおもろいやんなあ(笑)」なんて言っていて、ある意味、ノリと勢いで続けることを決めました。
ーーなるほど。とはいえ、プロダクトを作り込み、起業し、クラウドファンディングまで続けているのですから、どこかで本気になった瞬間があったようにも感じています。
古川さん:
高知の探究旅行は9月末だったのですが、その年の12月にもう一度高知に行く機会をいただきました。そのときはまだ「高知る」の段階だったのですが、高知の小学生に向けてすごろくを使った授業をさせてもらったんです。
小学生に授業をさせてもらうことになったとき、僕たちの中にも強い責任感や、より良いものを作ろうという意識が、一段と高まったんじゃないかと感じていて。というのも、小学校訪問前には、同級生や下級生を相手に授業の練習をさせてもらって、ゲームとしてきちんと成立しているかを見てもらい、たくさん改善点を教えてもらうなど、改善を繰り返していたからです。
中村さん:
実際に、小学生に体験してもらったとき、とても反応が良く、すごく楽しんで取り組んでくれていました。遊んでくれた小学生の子どもたちや、担任の先生から、これまでにないほどたくさんの感想やフィードバックをもらいました。
「相手の知らないところを知れた」とか「自分の新しい一面を知れた」という声があり、すごろくの力を感じました。そんな姿を見られたことは、本当にうれしかったですし、本気になった瞬間でもありました。
山崎さん:
友達と自分が違うということを知れた、おしゃべりできてうれしかった、という感想をくれた子もいました。一言だけでなく目いっぱい感想を書いてくれる子も多かったです。
中村さん:
フィードバックから、自分たちが考えたものをきちんと形として実現可能だという手応えを感じると同時に、もっとできることがあるかもしれないという思いも沸き始めました。そこから改めて本腰を入れてやり始めたという感じでしたね。
小学生に授業をしたときは、「高知の魅力発見」の要素が残ったすごろくではありましたが、自己理解にフォーカスする方向性はすでに念頭にありました。授業を終えて振り返りをする中で、自己理解の要素もきちんと届いた手応えがあったため、そこで自己理解に振りきることを完全に決めました。
進路選択に悩む高校生に届けたい
ーー自己理解ができる教材という方向に舵を切った結果、商品のターゲットを高校生に絞っていますよね。それはなぜですか?
中村さん:
私たち自身が高校生だからという理由ももちろんあるのですが、高校生の進路選択の場面で自己理解が必要になると思ったからです。
中学校から高校に進学するときは、ある一定の範囲の中から、多くの人が校風や校舎のきれいさ、偏差値などを基準に決める人が多いと思います。でも大学進学となると、選択できる地域も、選択肢の数も急に数が増えます。そもそも大学の数も多いし、その中からさらに学部や学科も選ぶ必要がある。海外を視野に入れると、その数は無限に多くなります。
そんなとき自分のやりたいことが分からないとか、好きなものはあるけれどそれを進路にすることに違和感があるとか、そうした問題を一番抱えやすいのが高校生なのかなと思いました。多くの学校では、進路についての授業はあっても、自分を深く知るための授業は無い。だから、この語れるすごろくを楽しんでもらって、自己理解のきっかけにしてもらえたらいいなと思いました。
ーー制作の過程で、たくさんの方に相談したり、テストプレイをしてもらい、フィードバックをもらいに言ったと聞きました。
中村さん:
探究旅行を企画してくださった会社の代表の方が主催するイベントで、参加者の前でピッチをするという機会をいただきました。ちょうどその時期は、私たちが、地域の魅力発見から「楽しく自己理解できるすごろく」というコンセプトに変更し、ターゲットを小学生ではなく高校生向けに変えたところでした。
また、市販するのではなく教材として販売するという方向性にシフトチェンジしたばかりで、切実にフィードバックがほしかったので、教育に携わる企業の方から直接コメントしていただけるのは、とてもありがたかったです。
ちなみに、そのイベントに参加されていたある先生が、ご自分の学校で使いたいからということで、25セットまとめて購入してくださいました!いろいろなイベントでいろいろな方とご縁をつないで、そこからまたお声がけいただいて、という感じでずっと進んでいるので、つながってくださった方とのご縁にはとても感謝しています。
イベント後にも、府内にある他の高校の生徒たちに取り組んでもらったり、クラスメートにも実際に遊んでもらったりしました。すごく楽しそうに遊んでくれ、自分のことや友達の知らないことを知れたという感想をもらい、自信にもつながっていきました。
ーー「語れるすごろく」を作り上げていく上で、大変だったことは何ですか?
中村さん:
悩んだのは、ゲーム性と学びの両立の難しさです。
私たちはとにかく楽しんでほしいということを大切にしていたのですが、堅苦しくしたくないけど、あまりにも楽しさの方に振りきってしまうと、私たちが一番届けたいはずの「自己理解」の大切さが届かなくなってしまうのでは。そのバランスにすごく悩みました。
いろいろ考えた上で、例えばお題を抽象化すると、考えるのも楽しくなるし、自分の大切なものも引き出されて、楽しさと自己理解を両立することができると気づいたりしました。
例えば「あと5分で自分の家が爆発するとしたら、何を持ち出しますか?」などといったような「もしも~~なら」というお題は増やしましたね。そうすると生き方のこだわりみたいなものを引き出せるのではないかと思って。
他のいろいろなカードゲームや、就職活動の面接などでよく聞かれる質問なども調べて、質問はたくさん考えました。
ーーその結果が実って、2024年の6月にはNext Education Awardで、中高生の部で最優秀賞を受賞したそうですね。おめでとうございます!どのような点が評価されたと感じていますか?
中村さん:
Next Education Awardとは、「今後世界が直面する課題を解決する人」の育成を目指し、課題解決に向けてチャレンジしている教育者や中高生にスポットライトを当て、表彰するという取り組みです。
これはあくまで自己評価なのですが、変にターゲットを絞り込みすぎず、対象は高校生全体としたことが良かったのだと思います。自分のことって誰しも意外とよく分かっていないし、多くの高校生にとって一人で自己理解を進めていくことは難しいと思うんです。そうした課題を解決し、高校生の幸せのために貢献するアイデアだ、という点を評価していただいたのかなと思います。
もう一つは、これまで「語れるすごろく」をいろいろな人に試してもらって、試してもらう度にフィードバックをいただき、改善を重ねてきた実績が評価されたと考えています。
ーーところで対話やリフレクションの機会が多い創造コースに所属する皆さんですが、皆さんは自己理解を楽しんでいますか?
山崎さん:
私は自己理解することがもともと好きで創造コースを選んでいるということもあるし、自己理解については普段から取り組んでいるタイプでした。
古川さん:
僕は志望大学もすぐに決まったし、逆にあまり決められずに悩んでいる人の気持ちが分からないところすら、正直ありました。自分が高校でどういうことを学んで、大学でどういうことを学びたいのか、あまり考えずに過ごしている人のことを、初めは自分の中で理解できなかったです。
中村さん:
私がこの3人の中で一番、典型的に悩んでいるタイプの人なんです(笑)。
もちろん何も考えずに生きてきたわけではないですけど、本当に進路を考えるのが難しすぎて。リンゴが好きだからリンゴ農家になりますっていう人は少ないように、「〇〇が好き」だからといって、必ずしもその職業に就くわけでもない。なぜそれが好きなのか、深く考えないとダメだということには気づいていたんですけど、それを一人で考えるのが難しかった。
でも創造コースにいると、一人で考えるのではなく、友達や同級生と対話しながら自分のことを知っていけるし、先生たちが自然と導いてくれることもあります。その経験があったからこそ、対話をすることで自分がそれまで気づいていなかった一面に気づくことができると、私たち3人とも共通して実感しています。
やってみてから、考える
ーー「語れるすごろく」を作る皆さんは、「わたがし」というチーム名を名乗っているそうですね。なぜわたがしなのでしょうか?
古川さん:
高知の魅力について、僕が感じたことが出発点になって「わたがし」というチーム名は生まれました。高知の人とお話ししていたら、大阪の人と違って、県外から来る人に対して、よく見せようとしていないように感じました。
高知の人がありのままの姿でいること自体が、結果的に県外から来た人にとって素敵な姿に見えているわけで、自分の軸を貫くということが素敵に見えるというのはすごいことだなと思って。そこで「軸から広がる魅力」からイメージしたのが「わたがし」でした。そして今も「チームわたがし」と名乗っています。
ーー軸から広がる魅力、ですか。確かにわたあめは、割り箸を中心にして、ぐるりと糸状の砂糖が広がっていますよね。発想力がすごいですね!わたがしを結成して、もうすぐ1年ですが、「語れるすごろく」のプロジェクトを通して皆さん自身に何か変化はありましたか?
古川さん:
僕は、このプロジェクトをする前は、みんなの前で発表したり、グループワークで発言したり、積極的にイベントに参加したりするタイプじゃなかったんです。だからきっと僕はすごく変化したんだと思います。
山崎さん:
そうそう、もっちー(古川)が一番変わった気がする(笑)!
中村さん:
前はあんまり前に出るイメージはなかったけど、今はだんだん変わってきてるよね。
古川さん:
今「わたがし」ではリーダーをさせてもらっていますが、本来自分にはリーダーが向いてたんじゃないかなと思ってます。
何が理由でどう変わったかはちょっとまだ言葉にできないのですが、以前の僕は、ザ男子、ザ野球部、という感じ。どちらかと言うとグループワークや発表も他の人に任せてしまうような、リーダーとは縁遠いタイプですらありました。
中村さん:
逆に私はどちらかといえばガンガン引っ張っていくタイプだったんです。でも本当は、自分だけが引っ張っていくことに違和感があって、もっと任せたりしたかった。何かすべきことが目の前にあると、何となくの流れで最終的には私がやることが多かったんです。人に頼ったり任せたりできないことに、実はけっこう悩んでいたんですよ。
みんなやろうよ!って声をかけたり、場を盛り上げたりすることは好きだし、苦手ではない方だと思います。でも最後までやりきるために責任をもって引っ張っていくということは、自分には負担が大きくて。本当の私はもっと抜けている部分がいっぱいあるのに、それに気づいてもらえなくて、そのことがしんどかったんです。
でも今は、私のできないところをこの2人は知ってくれているし、補ってくれるので、安心して任せよう、頼ろうということが自然とできるようになりました。
山崎さん:
私ももっちー(古川)と一緒で、そんなに積極的に前に出たり行動に移すタイプではありませんでした。このすごろくを作ると決めたときも、どちらかと言えば、みんなの意見や行動に乗っかったくらいの感じだったんです。
今までの自分は、興味があることも頭の中だけで終わらせてしまうタイプだったのですが、今では「語れるすごろく」のデザイン全般を主に担当させてもらって、すごく楽しくやっています。もともとデザインが好きだったので、今は頭で考えるだけでなく実際に形にするまでやらせてもらって、他の2人から行動力を分け与えてもらったような感じがしています。
ーープロジェクトが広がっていくにつれて、皆さんも成長されているのですね。プロジェクトに取り組む意義は、どんなところにあると思いますか?
中村さん:
「高校生だからできる」「失うものがない」とかかな、と思います。やってみないと分からないことばかりなので、「やってみてから考えられる」というのが、プロジェクトの価値なのかもしれませんね。
頭の中だけなら、誰でも何でも考えられる。でも、それをやってみることが難しいわけですよね。やってみないと何も得られないので、考えたならやってみるということが大事だし、私たちが「語れるすごろく」というプロジェクトに取り組みながらやっていることかなと思います。
ーーわたがしの活動に対して、周囲の人の反応はどうですか?
中村さん:
すごく協力的ですね。テストプレイに協力してくれたり、広報のためのSNSに出演してくれたり、私たちがいないところで「語れるすごろく」のことを宣伝してくれたりしています。
先生方の後押しにも感謝していて、たくさんの外部の方とつながる機会を設けてくれて、そのおかげでいろいろなチャンスを得ることができています。周りからの後押しや応援があるなんて、すごく恵まれた環境にいるんだなって実感しています。
とにかく一度、遊んでみてほしい
ーー「わたがし」の活動の今後に、目が離せませんね。
古川さん:
「語れるすごろく」のアイデア段階では、市販のトランプやすごろくのようにお店で売られていたらおもしろいよねという話をしていました。でも、3人でしっかり検討する中で、教材として学校に販売していきたいと考えるようになりました。
現在この事業は、僕が個人事業主として開業届を出し、代表として進めています。でも、相手が学校となると、個人事業主との取引が制限されたり、そもそも取引できないところもあって。そのため今後は、一般社団法人などといった形で、法人を立ち上げることを考えています。
中村さん:
これは、まだ「できたらいいよね」くらいの段階ではあるのですが、プロダクトが1つだけだとつまらないから、もっと他にも作っていきたいねという話はしています。
山崎さん:
チーム名である「わたがし」の由来が「軸から広がる魅力」ですから、「軸となる自分を知って魅力を広げていける」というコンセプトの、別の何かを作りたいねっていう話はしています。
中村さん:
8月15日までクラウドファンディングを実施している「語れるすごろく」は、製品として一旦完成しています。それを広めていくためにもクラウドファンディングをしているわけなのですが、せっかくこれからも続けていくなら、他にも何か作りたいですよね。
ーー最後に、「語れるすごろく」を届けたい人にメッセージをお願いします。
中村さん:
まずはどんな遊びなのか、体験してもらうのが早いと思うので、自己理解を難しく感じているような人にこそ、とにかく一度遊んでみてほしいです。もちろん大人でも体験はできますが、進路に悩んでいる高校生や、好きなものが行動につながっていないと感じる高校生にこそ使ってほしい。
高校生の時期に自己理解ができていれば、固定観念にとらわれず、自由な発想を豊かに広げられるようになると思うからです。