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「自分のため」はもう卒業!これからは「他者のため」に作品をつくる、決意表明の卒業プロジェクト。

生徒の世界を広げ、深め、創造へとつなげる追手門学院高校独自の「創造コース」。このコースの特徴的なカリキュラムを支える要素の一つが、「プロジェクト実践」です。

各学期末の考査期間や卒業制作として取り組むプロジェクトで、自分の世界を最大限に表現し、創造に挑む生徒たち。実際、どのようなプロジェクトに取り組み、どのようなアウトプットを生み出しているのでしょうか?

今回は、創造コース3年生の沼田 輝(ぬまた ひかる)さんに話を聞きました!

「自分のため」から「他者のため」に。決意表明の作品づくり

ーー沼田さんは、創造コース1期生として入学し、来年春に卒業を迎えますね。先日、卒業プロジェクトを終えたとのことですが、どのようなものに取り組まれたのか教えていただけますか?

今回の卒業プロジェクトでは、創造コース1期生それぞれが「アート」と「デザイン」を独自の視点で捉え、映像や音楽、作品として表現することに挑みました。僕は、アート作品として『NEOTENY(ネオテニー)』というタイトルのCG映像作品を制作しました。

デザイン作品では、「あなたのロゴ作ります」というタイトルで、その場で希望者から直接オーダーを受けて、その人をイメージしたロゴを作るという、出し物的な企画に取り組みました。

ーーまずはアート作品について教えてください。NEOTENYというタイトルのCG映像作品には、どんな思いが込められているのでしょうか?

この作品は、エレベーターに乗り込み、そこから見える外の景色を映し出した3DCG映像です。Mayaという3DCGアニメーションソフトを使って作りました。

僕が映像を作り始めたのは小学5年生のとき。最初にゲームの実況動画を撮ったのがきっかけでした。それ以来、映像制作が趣味となり、卒業プロジェクトでも「自分を一番表現できて、楽しんで作れるもの」として、映像作品を作ることにしました。

もう一つ、この作品に込めた思いというか覚悟があります。僕の夢は、ゲームの3DCGモデラーになって企業に就職し、活躍することです。

これまでは自分のこだわりを詰め込んだ映像をYouTubeなどで発信してきましたが、夢に向かっていくなら「自分のため」だけに作品を作っていては成長できない、これからは「他者のため」に作品を作れるようになろうと思ったんです。

今回の作品は、その決意の表明であり、そして、最後に自分のこだわりを目一杯詰め込んだアート作品の集大成を作ろうという思いで作りました。

ーー作品名のNEOTENYは、生物学用語で、幼生期にみられる特徴が成体になっても残る「幼形成熟」を意味しますが、このタイトルにはどのような意図があるのでしょうか?

NEOTENYには2つの意味を込めました。まず、先ほども触れた通り、これまで僕は「自分のため」に作品を作ってきましたが、今後は「他者のため」に作る覚悟が必要だと感じています。そのことは薄々分かってはいたものの、やらずに足踏みをしている自分がいました。そんな自分への自戒を込めたという意味合いが一つ。

もう一つは、人間も成長期の特徴を残したまま大人になるネオテニーだという考え方に由来します。だからこそ、大人になっても子ども心を忘れず柔軟な発想ができるのだそうです。僕自身、就職して他者のために作品を作るようになっても、「映像は楽しい」という根本の気持ちは失わずにいたい。そんなネオテニー性を持った人間でありたい、という願いも込めました。

実はこの映像制作も、もともとは夏休み中にどんどん進めようと思っていたのですが全然手をつけられなくて、「本当に自分ダメだな」と思ったんですよね。この気持ちをそのまま作品にしようと思い、ある意味これも僕のネオテニー性を映した作品と言えるかもしれません。

自分の内面を思いきり表出させた、最高の創作活動

ーー作品ができあがるまでは、やはり迷いながら悩みながらという紆余曲折がありましたか?

ありました。最初は、自分がエレベーターに乗って外の景色を見るという視点ではなく、キャラクターがエレベーターに乗っていろいろな世界を旅していくアニメーション作品にしようと思っていたんです。ただ、人間キャラクターを作るのは難易度が高すぎて、「これは完成できそうにない」と判断し、今の形に落ち着きました。

僕は3DCGモデラーを目指していますが、高校2年生まではほとんど3DCGに触れたことがなかったんです。3DCGの専門学校のオープンキャンパスでMayaというソフトを知り、そこから作品作りを始めたものの、思うようにいかなくて。まずは身近なものを題材にして作ってみようとしたのですが、実際にはその構造や仕組みを意外に知らないことが多く、それを再現するのがとても難しかったです。

ーーNEOTENYは、まさに沼田さんのありのままが映し出された作品になったのではないかと感じます。制作過程でどのようなことを感じていましたか?

この作品は「自分の心の旅」がテーマで、登場するさまざまなステージは、僕がこれまでに影響を受けてきたゲームや音楽、映像作品がモチーフになっています。

オープニングには、一瞬ですが英文を表示させて、「これから卒業プロジェクトを始めるよ」「今までの自分は本当にダメで愚かな人間だったけど、この卒業という区切りをもって終わりを告げよう」というメッセージを書いています。これが作品の入り口となり、今までの経験や記憶を旅して、自分の未熟さを自覚して帰ってこよう、という世界観を表現した構成になっています。

この作品を見てくれる人にとっては「おもしろい作品」ではないかもしれませんが、卒業プロジェクトという自由に自己表現できる機会を通して、自分の内面を思い切り外に出すことができたので、つくり手としてはとても楽しい制作時間でした。音楽も、全て自分でこだわって作りました。

ーーこの作品を見た方々からは、どのような反応が寄せられましたか?

映像が始まる前に、「これは自分のために作ったものだから、他の人には楽しめないかもしれない」と僕が実際に登場して説明をしているんですけど、「それを踏まえても僕は良かったと思うよ」といった感想をくれる人が多くいて、とても安心しました。

実は、自分のための作品であり、誰かに響くものでなくていい。むしろ「これが刺さる人が多くいるようでは、負けだ」くらいに思っていたんです。それでもやはり周りからどう思われるのかは気になっていました。

そんな中、作品を認めてくれて、わざわざ感想を伝えに来てくれる人がいたことは、心からホッとする経験でした。あの瞬間の安心感は、これまで味わったことがなかったかもしれません。

他者のためのデザインに、自分のアートを織り交ぜた

ーー「デザイン」の方の「あなたのロゴ作ります」についても、どんな企画だったのか教えてください。

この企画は、映像作品とは正反対で、他者のためだけに作品を作ることに特化しようと考えて生まれたものです。卒業プロジェクトの話を聞いてから、すぐにこのアイデアが浮かびました。

他者のために作る作品の究極形って何だろうと考えたときに、その場でオーダーを受け、その場で作るスタイルが一番かなと思ったんです。でも他者のオーダーをただ作るだけでは、自分が作る意味がない。自分だけが作れるものを作らないといけない。それなら、他者のためのデザインの中にも、少しだけ自分のアートを織り交ぜられるようなものにしようと考えて、ロゴを作るというアイデアにつながりました。

ーーどうやってロゴを作っていくんですか?

まず、オーダーを希望する人に、事前に準備した依頼シートにロゴにしてほしい文字や色、フォント、入れたい要素などの要望を記入してもらいます。それを基にデザインを考え、動画編集ソフトで形にしていく流れです。

依頼者のイメージを大切にしつつ、自分らしいアートの要素も取り入れるよう工夫しました。

ーーオーダーは結構きましたか?

予想以上にたくさんきて、80件ほどの依頼がありました。ロゴ1つ作るのに早くて1時間、長いと3時間かかります。受験も控えていたため、依頼者には「受験が終わってから作成を始めます」という条件で受けてもらいました。

既にお届けできた方からは、「良かったです」という感想をいただきました。

創造コースで「とりあえずやってみる」自分になれた

ーーこの卒業プロジェクトは、まさに創造コース生の創造力が全開放されたユニークなものだと思います。このプロジェクトに取り組む中で、どのような気づきや学びがありましたか?

「とりあえずやってみたら、意外とできることってあるんだな」と改めて感じました。創造コース自体が「とりあえずやってみる」をテーマにしたコースで、その姿勢で3年間を過ごしてきました。

卒業プロジェクトは、まさに自分にとっての「とりあえずやってみる」挑戦で、普段はなかなか手を出しにくいことにも取り組めましたが、思っていた以上にいろいろなことができるものだと実感しました。

ーー創造コースで過ごした3年間で、自分の中で変わったと感じる部分はありますか?

この3年間で一番変わったのは、インプットの姿勢だと思います。

映像作品を作るには、アイデアの引き出しが必要ですが、僕は高校に入るまではインプットをあまり意識せず、自分の限られた引き出しの中で作品を作っていました。創造コースでは、身の回りのものからアイデアを得るような授業が多く、その影響もあってか、普段の景色や電車の広告、周りにあるデザインにも目が向くようになってきて。

「これいいな」と思ったものは積極的に吸収して、自分でも「とりあえず作ってみよう」とアウトプットしていった結果、少ない情報量でも自分的にいいなと思えるデザインが作れるようになってきた手応えがあります。インプットって大事だったんだな、ということを実感しました。

ーー沼田さんにとって、創造コースでのプロジェクトとは、どのようなものですか?

意思表示の場かな、と思います。僕にとってのプロジェクトは、これまで学んできたことを発表する機会であると同時に、未来の自分につなげるための決意表明でもありました。

ーーでは創造コースは、沼田さんにとってどんな場所ですか?

自分の制作の幅を広げられる場所であり、人間を学べる場所です。
僕は人と関わるのが得意なタイプではなくて、中学まではクラスで一言もしゃべらないようなタイプでした。でも創造コースに入ってからは、人と関わる機会が増えて、本当にいろいろな人がいることを知りました。

また、創造コースには、他者との関わり方を考える授業やプロジェクトが多くあります。印象に残っているのは、「怒りの感情がこみ上げてきたら、とりあえず7秒待て」ということを1年生の最初に教えられたこと。人と上手に関わっていくにも、知識や学びが必要で、そうしたものがあれば、僕みたいに人と関わるのが得意でなくても、ちゃんと関わっていけるようになるんだと実感しました。

ーー創造コース1期生として、これから社会に羽ばたいていく皆さんの活躍が楽しみです!最後に、沼田さんの今後の展望について教えてください。

今後は、3DCGモデラーになるという夢に向かってまっすぐ進んでいきたいです。まずは大学で、3DCGだけでなく映像全般の知識を深めた上で、ゲーム会社に就職し、現場で経験を積みたいと思っています。

最終目標は、自分の大好きなゲームシリーズのキャラクターデザインに携わることです。この夢を僕は「最強のオタクになる目標」と呼んでいるんですけど(笑)、それを叶えることが、今の僕の人生の目標です。