たまたま席が近かった4人で映画制作。それぞれの「得意」を組み合わせ、全力で挑んだ卒業プロジェクト
生徒の世界を広げ、深め、創造へとつなげる追手門学院高校独自の「創造コース」。このコースの特徴的なカリキュラムを支える要素の一つが、「プロジェクト実践」です。
各学期末の考査期間や卒業制作として取り組むプロジェクトで、自分の世界を最大限に表現し、創造に挑む生徒たち。実際、どのようなプロジェクトに取り組み、どのようなアウトプットを生み出しているのでしょうか?
今回は、卒業プロジェクトの一環として「映画プロジェクト」と題し、30分尺の映画を制作した4名、小林 日向子さん、吉岡 哲兵さん、齋藤 夕璃さん、梅田 あにかさんに話を聞きました!
席が近かったから始まった、4人のプロジェクトチーム
ーー皆さんはどのようなプロジェクトを行ったのですか?
小林さん:
ひとことで言うと、自分たちで映画をつくりました。ストーリーは自分たちで考え、出演者は私たち4人と学校の先生、そして同級生です。企画、台本作成、演技、撮影、編集まで、全て自分たちで手がけて、約30分の映画を完成させました。
全編英語で作ったアクション映画で、タイトルは「MISSION: IMYURIBLE」。有名な映画「MISSION: IMPOSSIBLE」をオマージュしていて、メンバーの夕璃が主人公なので、このタイトルになりました。
ーーどうしてこのプロジェクトに取り組もうと考えたのですか?
梅田さん:
もともとは、2年生の11月に英語の授業で10分の映像作品を作ったことが始まりです。英語には「if構文」というものがありますよね。そのときの課題は、そのif構文を使って10分以内の映像作品を作るというものでした。
今回のチームメンバーがこの4人になったのも、その英語の授業で席が近かったから。それだけの理由なんです。
ーー目的に沿ってメンバーが集まるわけではなく、席が近かったからという理由でプロジェクトメンバーを結成するのもありなんですね。
小林さん:
はい、それ以外、この4人に特に共通点は無いです(笑)。最初の英語の授業中、実は夕璃がいなかったのですが、他の3人で話していて、「夕璃は演劇部だから、アクションシーンをやってほしいね」という話が出て、そのまま決まりました。
最初は、棒人間の簡単な絵コンテを描いて、「窓から飛び降りるシーンとかあったらかっこいいやん」なんて盛り上がって。それで「MISSION: IMPOSSIBLE」を思い出しました。
齋藤さん:
次の英語の授業で「これやるよ。夕璃、アクション映画の主人公ね。空飛ぶよ」って言われて、「え?」って。びっくりしました(笑)。
ーーおもしろい始まり方ですね。それが2年生のときの話で、3年生の卒業プロジェクトにはどうつながったのですか?
小林さん:
卒業プロジェクトについて考え始めたのは、4月か5月頃です。少し時間は空いていますが、2年生の秋に作った映像作品のことは、ときどき話題に上がっていました。私にとってその作品は存在感が大きく、記憶にも新しいプロジェクトだったので。それで、3年生になった今年も、「皆これやろう!」って声を掛けたら、皆も乗ってくれて始まったんです。
齋藤さん:
それに、2年生の秋に作った作品は、さりげなく「次へ続く」ような終わり方をしていたので、続編を作るのは自然な形でもありました。
創造とは、想像から始まる物語
ーー今回の卒業プロジェクトで制作した続編としての30分の映画では、4人はどのような役割分担だったのですか?
小林さん:
私が台本作成と映像・音声の編集を担当しました。哲兵とあにかには、台本に対する意見をもらったり、日本語から英語への翻訳をお願いしたりしました。もちろん、2人には演技もしてもらっています。
齋藤さん:
私は主人公を務めました。それと同時に、出演してほしい人への出演交渉や、教室や会議室の使用許可を取るアポイント係も担当しました。
ーー全編が英語というのは大変そうに思いますが、その点はいかがでしたか?
小林さん:
英語の翻訳は、DeepLというAI翻訳アプリの力も借りながら進めました。アプリで翻訳した文章を読み、おかしいところを修正しながら、日本語で書いた台本をその都度書き換えていくという方法を取りました。
梅田さん:
英語にした理由は、最初のきっかけが英語の授業で、その形式が決まっていたからです。それに、夕璃は演劇部ですが、他の3人は演技力があるわけではないので、英語の方がむしろちょうどいいかと思って。
ちょっとチープな洋画みたいにアフレコをすることで、それっぽい雰囲気が出ましたし、外国感の強いストーリーも、「MISSION: IMPOSSIBLE」をモチーフにしたことで自然に成立しました。英語の映画を作るのはすごくおもしろい経験でしたね。
ーー撮影や編集のときに何か工夫したことはありますか?
小林さん:
撮影した動画の音声は、雑音が多く入ってしまうので、全て消して後から吹き込んだり、効果音を加えたりしました。声は生音声もありますが、AI音声も使っています。効果音については、CupCutという音声編集アプリを活用したほか、さまざまな道具を使って「それっぽい音」を自作し、それらを組み合わせる工夫をしました。
ーー逆に、難しかったところはどんなところでしたか?
小林さん:
たくさんの人に出演してもらったので、スケジュール調整がとても大変でした。出演者の予定を半ば無理やり空けてもらうこともあり、「このままだと完成まで間に合わないかもしれない。やばいなぁ」と思う瞬間もありました。
特に最終決戦のシーンでは15人が出演していて、その撮影日が発表会の3日前だったんです。かなりギリギリのスケジュールで、正直、結構しんどかったです。
ーー卒業プロジェクトのテーマは、「『創造』とは?」だったそうですね。この問いに対しては、どう考えましたか?
小林さん:
その問いをもう少し分解して、「アートとは?」「デザインとは?」を定義づけることが、卒業プロジェクトに取り組む上での課題だったのですが、私たちは映画を作ることが先行してしまっていたので、正直あまり深く考えられていませんでした。
それでも、「創造とは何だろう?」と考えたときに、「これは私たちの想像から始まる物語です」というフレーズがふっと浮かんできたんです。皆に話したら、「いいね」とすぐに賛成してくれて、ぱっと決まりました。
作品の中では、最後のシーンで、役としての台詞ではなく、制作した私たち自身の言葉としてこのテーマを表現する場面があります。
そして最後に、全員で
と言うんです。これは、作品の締めくくりとしての言葉であると同時に、私たち自身がこのプロジェクトを通して感じたことから生まれた言葉だと思います。
4人の「得意」が組み合わさって生まれた作品
吉岡さん:
終わった後、まず肩の荷が下りたという感じでした。卒業プロジェクトは楽しかったけれど、過密スケジュールからくるしんどさもあったので、とにかく安心しました。それと同時に、完成した作品を見たとき、胸に迫るものがありましたね。「おぉ」と感慨深い気持ちが湧いてきました。
小林さん:
先日、1作目と2作目を連続で視聴してみたのですが、自分の編集技術がすごく上がったことを実感しました。1作目の編集を見返すと、未熟さに驚きます(笑)。音声はアフレコではなく生録りだったので雑音が目出ち、英語も少し雑で、物語にも余計な部分が多かったりして...。それらを改めて見たときに、今の自分の成長を感じましたね。
梅田さん:
1作目をつくったとき、先生に「いろいろな先生や生徒を巻き込むといい」とアドバイスされ、それを意識していました。実際、卒業プロジェクトで作った作品では出演者が大幅に増え、映画全体が賑やかで華やかな雰囲気になったと思います。
ただ、キャストが増えた分、スケジュール調整が本当に大変でした。いろいろな人に「お願いします!出演してください」と頭を下げてお願いしに行くこともあって。それでも、そういった苦労も含めて「やって良かったなぁ」と思います。先生が出演して演技しているだけでもおもしろいと感じるし、観る人が楽しめる作品を作れたことが本当に良かったです。
齋藤さん:
前作を作ったのは2年生のとき、今回は3年生。私の演技について言えば、表情が台詞にすごく合うようになったと思います。自分個人のプロジェクトよりも、この映画プロジェクトを優先するくらい力を入れて取り組んでいたのですが、だからこそ、たくさんの人に協力してもらい、多くの人に観てもらえる作品ができたなって思います。
前作のとき、母に「映画を撮ってんねん」と話していましたが、実際に観てもらう機会がなかったんです。だから今回の発表会では、母だけでなく、他の保護者や外部の方々にも観てもらうことができたので、それがとてもうれしかったです。
ーー小林さんは編集が得意、齋藤さんは演技が得意など、4人の得意が組み合わさって生まれた作品という意味でもスペシャルですね。
小林さん:
本当に皆のサポートに支えられました。私は台本を考えるとき、一人でうんうん悩むよりも、人とあれこれ話し合いながら進めた方が捗るタイプなんです。あにかは家が遠いのに、夏休みも1〜2時間かけて学校まで来て、一緒に作業してくれました。 たまに遅刻はしてましたけど(笑)。それでも来てくれるだけでうれしくて、「私も頑張ろう!」と思えました。
齋藤さん:
哲兵とあにかは、ひなが出したアイデアに対して、いろいろな意見を出してくれて、それをさらに肉付けしてくれる存在でした。
梅田さん:
私はきっと、0から1を生み出すアイデアを出すことより、それを1から2に発展させる方が自分に向いていると思っています。だからこそ、自分にできることをやろうと思って「こっちの方が楽しいんちゃう?」といった意見を出すようにしていました。賛成のときでも反対のときでも、遠慮せずに伝えるようにしていましたね。
小林さん:
あにかは、アイデアに乗っかるときは本当に全力で乗っかってくれるんですけど、「これはこっちの方がいい」と思ったときにはズバッと意見を言ってくれます。「言うべきときには言ってくれる」存在ですね。
自分たちの“好き”や“得意”を突き詰めるプロジェクト
ーーここまでいろいろお聞きしましたが、プロジェクトの学びとはどのようなものかと聞かれたら、皆さんは何と答えますか?
吉岡さん:
全力で頑張ることに意味があるものなんじゃないかなと思っています。正直、僕は普段いろんなことに手を抜きがちなんですが、この卒業プロジェクトに関しては、本当に全力というか、命を削るくらいまで頑張ったと言えます。普段あまり頑張らない自分にとって、貴重な経験になったと思っています。
小林さん:
逃げようとしたら私が怒るから?
一同:
(笑)
小林さん:
私も、全力で頑張ることや楽しむことに意味があると思っています。楽しくなければ、それはただの作業。それなら机に向かって勉強している方がまだいい。楽しめるプロジェクトであることが、この創造コースにおけるプロジェクトの一番の意味なんじゃないかなと思います。
梅田さん:
私個人の考えですが、これまでのプロジェクトは「自分はどんなことが好きなのか」を探ることが中心だったように思います。今回の卒業プロジェクトでは、“探す”というより“突き詰める”に近い感覚でした。
創造コースの3年間で見つけた好きなことや、やりたいことをもっと追求したり、突き詰めたりする機会だったと思います。それは、4人で作ったこの映画作品だけでなく、個人で取り組んだプロジェクトについても同じで、そんな楓に自分の「好き」を深める時間だったと感じています。
齋藤さん:
私も、プロジェクトの学びは全力で何かをやりきることだと思います。これまでのプロジェクトは、最後までやりきれずに中途半端な思いが残ることもありましたが、今回は卒業プロジェクトということもあり、自分たちが納得するところまで作り上げたいという思いで取り組みました。
個人のプロジェクトでは、嫌なことからすぐに目を背けてしまう癖や、逃げてしまう癖に向き合うことがテーマでした。自分をどう成長させていけるかを深く考える機会になったと思います。
ーー皆さんのチームワークの良さと仲の良さを感じました。最後に、今後やりたいこと、挑戦したいことを教えてください。
小林さん:
さっき別の友だちと話していたのですが、この「MISSION: IMYURIBUL」をストーリー化して漫画にできたらいいなと思っています。自分で言うのもなんですが、ストーリーが結構好きなので、漫画化して読みやすくしたら喜んでくれる人がいるんじゃないかなって。
ただ、これは仕事にしたいというわけではなくて、あくまで趣味としてやってみたいことです。動画編集も好きですが、それも趣味のようなものとして、これからも続けていきたいと思っています。
梅田さん:
今回の卒業プロジェクトでは、個人ではまた全然別のことをやっていました。それも好きなことだし、実は私はバンドのボーカルなど他にもいろいろやっているので、何か一つに絞るのは難しいんですけど…。でも、物語を作るのは好きなんですよ。昔から小さな絵本をたくさん作っていたりしますし、今も創作された物語を元に遊ぶゲームがあって、そういうお話を販売することもできるので、私も作ってみたいなと思っています。
それから、私の「死ぬまでにやりたいことリスト100」の中に、350ページぐらいの小説を書くという目標もあるので、それもいつかやりたいなと思っています。
吉岡さん:
僕自身の卒業プロジェクトでは、音楽に取り組みました。僕、音楽を聴くことくらいしか趣味らしい趣味がなくて。ゲームも好きなんですけど、それって学生にとっては「標準装備」みたいなものなので、趣味とはちょっと違うかなと思っています。だから、音楽とはこれからも末永く付き合っていきたいです!
齋藤さん:
私は、俳優になりたいと思っています。私は個人の卒業プロジェクトでライブ作品を制作しましたし、この4人でも映画の作品を作ったので、どちらのプロジェクトでも演じることに挑戦しています。個人プロジェクトでは「自分」という役を演じ、映画プロジェクトでは「ゆうり」というアクション映画の主人公を演じました。この2つの経験は、私にとって本当に大きな意味を持つものでした。
今回、映画を観てくれた人からフィードバックをもらい、その反応にすごく感動しました。これからも、誰かに影響を与えられる俳優になりたいなと思っています。小さなことでもいいから、観てくれた人の価値観を少しでも変えるような、そんな影響を与えられる俳優を目指したいです。