絵の上達も、飽くなき探究心にも、終わりはない。「好き」をとことん探究した「鳥人」デザインプロジェクト
生徒の世界を広げ、深め、創造へとつなげる追手門学院高校独自の「創造コース」。このコースの特徴的なカリキュラムを支える要素の一つが、「プロジェクト実践」です。
各学期末の考査期間や卒業制作として取り組むプロジェクトで、自分の世界を最大限に表現し、創造に挑む生徒たち。実際、どのようなプロジェクトに取り組み、どのようなアウトプットを生み出しているのでしょうか?
今回は、創造コース3年生の尾﨑存華(おざきありか)さんに話を聞きました!
架空の生き物をリアルにデザインするプロジェクト
ーー尾﨑さんがどのようなプロジェクトに取り組まれたのか、教えていただけますか?
今回の卒業プロジェクトでは、「あなたにとって、アート・デザインとは何か」を一人ひとりが定義するというお題が課されていました。
私は、アートを「目的を達成し、完成した状態」、デザインを「目的達成のために必要な要素を揃えること」と定義してプロジェクトを進めました。この定義をもとに、3年間の集大成として、私がずっと続けてきた「絵を描くこと」に卒業プロジェクトでも取り組むことにしました。
特に私は、架空の生き物をキャラクターにして描くのが好きで、天使や天狗のように人に翼が生えた見た目の架空の生き物「鳥人(とりびと)」をテーマにした作品を制作することにしました。
ーーなぜこのようなプロジェクトに取り組もうと思われたのか知りたいです。
もともと、生き物や架空生物が好きで、その中でも、例えばポケモンのようにしっかり作り込まれた架空の生物が、その作品の世界の中で本当に生きているように感じられるものに魅力を感じます。それを目にすると、なんだかすごくうれしい気持ちになったり、親近感が湧いてきたりして、楽しい気分になるんです。
ただ、人に翼が生えた姿で、しかも理論上飛ぶことが可能な生き物として細かく作り込まれたものにはあまり出会ったことがなかったので、「それなら自分で作ってみよう」と思い、このプロジェクトをスタートしました。
ーープロジェクトに取り組む中で、難しかったことはありますか?
架空の生き物である鳥人が、本当に翼をはばたかせて飛べるような設定まで作り込むためには、いくつかの条件があることが分かりました。その条件は、以下の通りです。
そもそも鳥人とは実在しないものなので、それを描くということ自体がすごく難しかったです。
例えば鳥人の骨格部分。実際に飛べるようなデザインにするために鳥の骨について調べてみたところ、鳥には烏口骨(うこうこつ)と暢思骨(ちょうしこつ)があることが分かりました。烏口骨(うこうこつ)は、胸骨(きょうこつ)につながる骨で、暢思骨(ちょうしこつ)は人間の鎖骨に当たる部分です。
描き進める中で、その長さやバランスを調整する必要があり、特に骨格全体のバランスを取るのが大変でした。プロジェクトの初期段階では鳥人の外見だけを描いていたため、骨格部分は想像しながら描いたのですが、実際に描いてみると、例えば肋骨の数が想像以上に多いことに気がついて…。
知らない部分を知らないままに、想像だけで描こうとすると、やっぱり限界があるなと痛感しましたね。
卒業プロジェクトは、集大成というより一旦の区切り
ーー実際に飛べる鳥人を創るために、鳥が飛ぶための骨格まで調べて描こうとする探究心に驚きました。その探究心はどこから湧いてくるのでしょうか?
私の探究心は、「なんだか気になる」という気持ちから生まれます。私にとって、生き物について知ることは、その生き物の解像度が上がるような感覚で、とてもワクワクするんです。
そのワクワク感を味わいたくて、もっと深く知りたいという思いが強くなります。その気持ちが私の探究心につながっているのだと思います。
ーーなるほど、おもしろいですね。卒業プロジェクトでは、さまざまな方を招待して発表会が行われたそうですが、見てくれた人から何かフィードバックはありましたか?
鳥人を気に入ってくださったのか、たくさん質問をしてくださる方がいました。その中で、「これは本当に飛べると思いますか?」と聞かれたことが特に印象に残っています。
私は今回のプロジェクトで描いた鳥人の体重を「12kg」と設定していたのですが、その方から「12kgだと重すぎて飛べないのではないか」と言われて。そこで私は、「アホウドリは体重12kgで飛べるので、この鳥人も飛べると思います」と答えました。でも心のどこかで、「誰が見ても飛べると思ってもらえるような根拠をもっと揃えられたらよかったな」と感じました。
あのとき、堂々と「飛べます!」と言い切れなかったことが少し心残りで、すごく悔しかったですね。
ーー悔しさが残るプロジェクト発表会だったのですね。
いただいたフィードバックを受け止めて振り返ってみると、羽についての理解が足りなかったなと気づきました。少し専門的な話になりますが、鳥は種類によって羽の枚数が異なるんです。
翼の先端には「初列風切羽(しょれつかざきりばね)」と呼ばれる羽があり、その内側の下側には「次列風切羽(じれつかざきりばね)」という羽があります。初列風切羽の枚数は、鳥の種類に関係なく基本的に9枚か10枚。一方で、次列風切羽の枚数は鳥の種類によって大きく異なり、小さい鳥では6枚ほど、反対に大きい鳥では36枚近くにもなるそうです。
次列風切羽の枚数が多いほど羽全体が大きくなり、風を受けやすくなるため、飛びやすくなる仕組みになっていると後から知りました。私が鳥人を創っているときにはその知識がなく、もっと調べておけばよかったと強く感じましたね。
ーー卒業プロジェクトという集大成の場ではあるものの、さらに課題を発見するという姿勢に尾﨑さんらしさが表れているように感じました。
まだまだ詰められる部分があったと思います。もっと作り込めば、もっとリアルに鳥人が飛べそうだと感じてもらえたかもしれません。この卒業プロジェクトは、「創造コース」3年間の集大成と言われていますが、私にとっては一旦の区切りという感覚ですね。
絵の上達には本当に終わりがありません。最近、「絵うまいね」と言ってもらえるようになったのですが、自分ではまだまだ下手だなと思っています。なぜかというと、思い通りに描けないことの方が圧倒的に多いから。
自分の思い通りに描けるようになることを想像すると、その道のりはすごく長くて、本当に終わりがないと感じます。でも、常にゴールが見えない場所を目指しているような状態なので、終わりがないことがむしろ当たり前だとも思っています。
自分を疑い、新たな発見を得る創造コースでの学び
ーー「終わりがない」ということを、とてもフラットに捉えているんですね。
正直、終わりがないことがたまに面倒くさくなることもあります(笑)。サボりたいなと思うこともありますが、サボると少し絵が下手になってしまう気がして、結局サボれないんですよね。
ただ、サボらず続けていると、以前の自分よりも上手くなっていると気づく瞬間があって、そういうときは達成感を感じます。
自分で描いた絵はなるべく残すようにしているのですが、数カ月前の自分の絵を見て「下手だな」と思うこともあって。でも、それは今の自分がそのときよりも成長している証拠でもあります。そうやって、やった分だけ上達するんだと気づけたことが、絵を描き続ける理由になっています。
今後も絵を描き続けるために、一番良い方法だと考えているのが、絵を職業にすること。漫画家やアニメーターといった道もありますが、私にとって一番馴染みがあるのはイラストレーターの仕事です。イラストレーターとして商用利用できるレベルの絵を描くには、やっぱり練習を重ねることが大切だと思っているので、だからこそ高校の3年間、ずっと絵を描き続けてきました。
ーー尾﨑さんが「好き」をどこまでも探究していることが伝わってきました。そんな創造コースでの3年間を、どんな風に振り返りますか?
創造コースは、自分が感じていることを気軽に共有できる仲間が集まっていて、居心地が良かったです。「話せば分かってくれる」という感覚はありますが、必ずしも完全に理解してくれるわけではなく、「分からなくても受け入れてくれる」という表現の方がしっくりくるかな。居心地の良さは、そうした環境が理由だと思います。
私はどちらかというと猪突猛進型で、不安もあっても「なんとかなれー!」という勢いで物事に取り組むタイプです。これまで、そんなやり方で結果的にうまくいった経験を積み重ねてきました。今回の卒業プロジェクトを通じて、自分が改めてそういうタイプなんだと気づかされました。
創造コースの3年間で学んだ一番のことは、「自分の状態を疑ってみる」ことの大切さです。このコースでの学びを深めるには、しっかりした準備が必要ですし、その準備の過程で自分の知識を見直すことで、誤解していたことに気づけるんです。鳥人を描くプロジェクトでも、「自分の作品を疑ってみる」ことで、新たな発見がたくさんありました。
ーー自分の状態を疑って見つめてみたり、振り返って捉え直すことの大事さを実感されたのですね。最後に、尾﨑さんのこれからについて聞かせてください。
以前、社会で活躍している方のお話を聞く機会があり、その中で「好きなことを仕事にするのは、すごくしんどい部分もある」という言葉がとても心に残っていて。それでも、絵を描き続けたいし、それを仕事にしたいという気持ちは覚悟の上で持つようになりました。どんな覚悟なのかは、まだ自分でもうまく説明できないのですが、これからも絵を描きながらいろいろな挑戦をしていきたいです。
例えば、イラストを描くための技術を増やすこと。これまでは「ベタ塗り」というシンプルな色の塗り方が多かったのですが、和風の柄を取り入れてみたり、絵の中で光や影の表現を観察しながら工夫したりして、表現の幅を広げていきたいですね。
卒業後は芸術大学に進学することが決まっています。このプロジェクトが終わった後も、これまで以上に絵を描き続け、自分なりの表現を追求していきたいです。